« 現代の独裁者 | トップページ | 分かったような分からないような、それがいいのですか? »

2005/06/02

それなら、ただの・・・

かつての職場での話。
女子事務員が、電話を終えて腹を立てている。身長は優に170cmを超え、体重も米一俵分は下らないであろう大女だから、かなりの迫力である。

「何をそんなにカリカリしてんの?」

「だって、あまりにも業者が慇懃無礼で」

???慇懃無礼でそこまで腹を立てる必要があるのか、というほどの剣幕。

「何て言われたん?」

「何てって・・・、ごみの回収の業者なんですけど、前回、回収に来なかったでしょう? あの件を言ったんです」

「ふんふん、謝り方に誠意があらへんの?」

「いいえ。謝らないんです。何やかやと、言い訳ばっかりして。お宅の勘違いやないのとまで最後は言いよるんです。ほんま慇懃無礼やわ」

慇懃無礼(いんぎんぶれい)なんて、えらい難しい言葉を使うなぁ、さすが国文出身やと思っていたが、何のことはない、ただの無礼という意味で使っていたのだ。

冷静さを失った彼女の怒りの矛先を自分に向けたくないから言わなかったが、慇懃無礼とは、表面は慇懃(丁寧)だが、心の奥には尊大な気持ちがある態度のことである。次のような使い方が正しい。

夫の弥平を亡くした後のごたごたで、もう年が越せないという台所状態に陥ったお菊は、徳次を訪ねた。おくまの話では、多くは貸してくれぬが、利子は安いということだった。
「それは、お困りでしょう。たいしてお役には立てませんが、ご遠慮なくお申し付け下さい」
言葉も丁寧だし、立ち居振る舞いも洗練されている。しかし、視線だけは違った。自分の身体を値踏みしている女衒の目つきだ。気の強いお菊は、慇懃無礼な男にこれ以上自分の弱みを見せたくはなかった。
「あいすみませぬが、この話はなかったことに」
目を丸くした徳次に会釈するが早いか、すと立ち上がり、振り返りもせず、お菊は往来を駆けるように去った。しかし、家に戻り半刻もすると、年が越せない心配が再びお菊を襲った。

→人気blogランキング へ(最近はだいたい25位辺りをうろうろ)

|

« 現代の独裁者 | トップページ | 分かったような分からないような、それがいいのですか? »

ことば」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13076/4296852

この記事へのトラックバック一覧です: それなら、ただの・・・:

« 現代の独裁者 | トップページ | 分かったような分からないような、それがいいのですか? »