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2006/01/01

とうもろこしで年を取る

我が親父はおめでたい人間です。性格もおめでたいのですが、それを書くと単行本ができるぐらいの量なので置いておきます。 が、それを置いておいたとしても、誕生日が元日なのです。

毎年正月は、親父の誕生祝いを兼ねています。兄弟の分担で、僕がケーキを買いに行くことになっているのですが、これが厄介。神戸ですから、ケーキ屋はあちこちたくさんあるのですが、元日から開いているところなんてほとんどありません。クリスマスが終わるとどこのケーキ屋もほっとしていることでしょうから、無理もありません。

それでも、車で1時間ほど探し回れば、開いているところはあります。毎年ようやくの思いで見つけては、

「よし、これで来年はうろちょろせんでもええぞ」

と安心するのですが、どういうわけか、次の正月までその店がもちません。考えてみれば、元日に開けているケーキ屋は、それこそ起死回生の思いで元日にまで開店せざるを得ないような状況に追い込まれているのでしょう。

ともかく今年も何とか一軒見つけ、来年まで店が持つように祈りつつケーキを買い求め無事に実家に行きました。

元自衛官の親父には、子供の頃、厳しくしつけられました。

食事は栄養をとり活動の源とすることが第一義で、かつ全義であるという主義でした。日本男児たるもの、隙を見せることはまかりならんということで、食事に時間をかけることも許されません。おしゃべりもだめです。背中が曲がってもいけません。夕食で、親父が5分、僕が10分弱ぐらいでした。

小学校に行き始めた頃、みんなが給食の時間になるとうきうきしているのが、最初は理解できませんでした。幼少の僕には、食事時間はとにかく早く過ぎ去ってほしい時間でしかなかったので、「食事が楽しみ」とか「だんらん」とかいうことを知らずに一年生になっていたのです。

その親父も年をとりました。孫を呼ぶときは「くん、ちゃん」づけです。妹の連れてくるチワワを二匹抱いている姿など、僕には異次元のもののように思えます。

最も親父が年をとったと思ったのは、とうもろこしの話をしていた時です。

TVのコマーシャルで、背の高いとうもろこし畑が映ったのを見て、僕が問題を出しました。
「とうもろこしの利用法で最も多いのは?」
そのまま焼く、スープに入れる、南米ですりつぶして主食にする、ミックスベジタブルに入れるなど色んな解答が出ました(ちなみに答えは飼料です。娘があてました)。

それを聞いていた親父が終戦直後の話をしだしました。

「戦争終わってすぐの給食で、とうもろこしがよう出たわ。アメリカにもろたやつ。それにパンを食わんから日本人は戦争に負けたとか言われて、パンばっかりで米は出たことがなかったな。戦時中の食うもんが無うて、貝しか食えん頃に比べたらましやったけど、食事ちゅう感じはせんかったな。中でも脱脂粉乳はまずかった」

僕は耳を疑いました。敗戦直後の状況を聞いたからではありません。
親父が「まずい」と言ったからです。

僕は最初に書いたようなしつけを子供の頃に受けていたので、食べ物の好き嫌いなどとても言えませんでした。「おいしい」などと言おうものなら、鉄拳制裁です。菓子ならともかく、食事は美味い不味いの対象たるべきものではなく、かつ男子が好悪を表現することも許されないことだからです。まして、「まずい」という言葉など口にしたことさえありません。

だから、最近、女の子でも「まずい」という言葉を平気で口に出す状況に違和感があります。親父も、おめでたい男ではありましたが、世の風潮におもねらないことは一貫していました。その親父が軽薄な世間に迎合するかのように、「まずい」の一言。

四十代の頃でも片手で腕立て伏せをして鍛えていた親父、今でも毎日のように山登りをしている親父。でも、やっぱり年かな。

追記1)なお、親父は給食用の食料をアメリカにもらったように思っていたようですが、実際はアメリカでだぶついて値下がり圧力の強まっていた小麦を、借金で日本が大量に買わされていたのです。国民総餓死寸前で、無条件降伏をして占領下にあった日本に、選択肢はアメリカの言うなりになることしかありませんでした。捨てるために食品を販売しているのではないかと思えるほどになった現在でも、アメリカの小麦・大豆・とうもろこしを大量に買う状況は変わっていません。

追記2)親父は戦時中、広島にいたそうで、毎日海にカキを取りにいかされたようです。それで、発言に「貝しか食えん頃」とあるのです。今でもカキは決して口にしません。

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